名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1221号 判決 1949年12月06日
被告人
大塚二郞
外二名
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
第一の被告人石田喜三郞に対する控訴趣意第一点について。
訴因の変更は絶対に許されないものではなく、公訴事実の同一性を害しない程度に於ては裁判所は檢察官の請求があるときは之を許さなければならない(刑訴法第三一二條第一項)。而して起訴状に記載することを要求される訴因明示の方法としての日時は特別の場合を除き、罪となるべき事実ではなく唯之を特定する爲めに表示するもので、而もそれは唯一の特定方法ではなく一つの目やすたるべきものに過ぎない。故にその他の記載又は証拠により公訴事実の同一性に影響を來さないと認められる限り日時の訂正は当然に許さるべきであつて此の場合若しその爲めに被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認められるときは被告人又は弁護人は充分な防禦の準備をする爲めに必要な期間公判手続の停止を請求し得るに過ぎない。本件にあつては檢察官は第一回公判に於て起訴状記載の公訴事実の二中「三月三十日頃」とあるは「三月二十日頃」の誤謬であるから訂正する旨裁判所の許可を求め、之に対し弁護人より「公訴事実の変更と看做されるから違法である」との意見を述べた事は所論の通りであるが、本件記録に徴すれば右起訴状記載の日時の誤謬は寧ろ誤記と認められる程度のものであつて、その訂正が公訴事実の同一性に影響するものとは認められないのみならず被告人の防禦についても実質的な不利益を生じたとは考えられない。故に原審が右檢察官の訂正を許容したのは相当であつて論旨は理由がない。